通信に使われる電波の名称は、その進み方によって様々なものに分類されます。
今回は、超短波(30~300[MHz])以上の周波数が主に伝搬する「直接波」と関わりが深い、山岳回折とフレネルゾーンについて紹介したいと思います。
山岳回折の仕組み
直接波とは、送信点から受信点まで直接届く電波のことです。
周波数が超短波以上になると直進性が強くなるため、障害物が無い限り、電波はほぼ真っ直ぐに進んでいきます。
ですが日本は山が多いので、進んでいる最中に山にぶつかってしまうこともあります。
↑このようにぶつかると電波は反射してしまいますが、
↑山の頂上、いわゆるとがった部分に当たった場合、電波は回折という現象を起こします。
これを山岳回折といいます。
空間などを伝わる波に対して障害物が存在する時、波がその障害物の背後など、本来なら到達できない領域にまわりこんで伝わっていく現象のこと
このため、山に遮られて物理的に電波が届かないような地点でも、場所によっては受信できてしまうのです。
ちなみに無線関係の本では、山の代わりに「ナイフエッジ」という言葉がよく使われています。
ナイフエッジが存在する場合の電解強度
直接波がナイフエッジに当たると回折することを説明しましたが、回折した電波はそのまま「回折波」と呼ばれます。
実際の受信点には、この回折波と、直接波が両方届く領域があります。
この状況を詳しくみていきましょう。
まず、送信点と受信点の間に障害物が無い場合、この2点を繋いだ直線を「見通し線」といいます。
ここでは、見通し線にギリギリかからない位置にナイフエッジの先端があるとします。
受信点が見通し線の高さにある場合、そこでの電解強度は、自由空間の電解強度のおよそ半分になることがわかっています。
自由空間の電解強度を\(E_0\)とすると、受信点の電解強度\(E\)は、
$$E=0.5E_0$$
と表される。
見通し線より上側の領域
この領域では、受信点に直接波と回折波が両方届きますが、2つの波の間で「干渉」が起こります。
位相の違う複数の波が強め合ったり弱め合ったりすることで、それぞれの波の状態が変化したり、新しい波が生まれたりする現象のこと
直接波と回折波とでは受信点までの経路の長さが違うので、受信点に到達した時には互いに位相も違っているということです。
直接波と回折波の干渉が起こるこの領域は「フレネルゾーン」と呼ばれます。
電波の波長を\(λ\)とした場合、経路差が\(\large\frac{λ}{2}\)の何倍かによって、フレネルゾーンにも名前がついています。
・・・・・第1フレネルゾーン
●経路差が\(\large\frac{λ}{2}\)の2倍となるまでの領域
・・・・・第2フレネルゾーン
●経路差が\(\large\frac{λ}{2}\)の3倍となるまでの領域
・・・・・第3フレネルゾーン
(以下同様)
フレネルゾーンにおいて、受信点を見通し線の高さから上げていくと、受信点での電解強度も変動します。
具体的には、自由空間の電解強度より強くなったり弱くなったりを繰り返しながら、段々と自由空間の電解強度に近づいていきます。
電解強度の変動は、フレネルゾーンが第1、第2、・・・と進むにつれて、少なくなっていくことがわかります。
見通し線より下側の領域
この領域では、主にナイフエッジによる回折波が到達するので、直接波との干渉は起こりません。
ただし、受信点を見通し線の高さから下げていくにつれ、受信点での電解強度は急激に低下します。
いくら電波が回折するといっても、山のふもと近くは受信し辛いということです。
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以上、3つの領域についてみてきましたが、今一度それぞれの特徴をまとめてみます。
●主に直接波が到達
●電解強度は、自由空間の電解強度のおよそ半分になる
<見通し線の上側>
●直接波と回折波の干渉が起こる
●フレネルゾーンが存在
●受信点を上げていくと、電解強度は強弱を繰り返しつつ自由空間の電解強度に近づく
<見通し線の下側>
●回折波のみが到達
●直接波との干渉は無し
●受信点を下げていくと、電解強度は急速に低下
今回はナイフエッジ(山)が存在する場合を扱いましたが、これが無い場所でもフレネルゾーンの考え方はよく使われますので、また別途紹介したいと思います。